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2006年2月21日 (火)

12.「猫おろし事件」12.1 「平家物語」「高野本」「猫間中納言」

12.「猫おろし事件」

 「平家物語の猫間中納言」の項で、近所の公家「猫間中納言」が訪ねてきたとき、「ねこま殿」を「ねこ殿」と間違えたとか、食事を出したが、粗末な食器で山盛りご飯を強要した。食べ残しを「ねこおろし」したとからかったという話しである。義仲は無礼な奴であるという評価のようである。しかし、創作つまり作り話である。

12.1 「平家物語」「高野本」「猫間中納言」Img_4324

兵衛佐どの出でられたり。布衣に立烏帽子也。顔大きに、せい低かりけり。容貌悠美にして、言語分明也。
(中略)
兵衛佐はかうこそゆゆしくおはしけるに、

木曾の左馬頭、都の守護してありけるが、たちゐの振舞の無骨さ、物いふことばつづきのかたくななる事かぎりなし。ことはりかな、二歳より信濃国木曾といふ山里に、三十まですみなれたりしかば、いかでか知るべき。或時猫間中納言光高卿といふ人、木曾にの給ひあはすべき事あ(ッ)ておはしたりけり。郎等ども「猫間殿の見参にいり申すべき事ありとて、いらせ給ひて候」と申しければ、木曾大きに笑って、「猫は人にげんざうするか」。「是は猫間の中納言殿と申す公卿でわたらせ給ふ。御宿所の名とおぼえ候」と申しければ、木曾「さらば」とて対面す。猶も猫間殿とはえいはで、「猫殿のまれまれわいたるに、物よそへ」とぞの給ひける。中納言是を聞いて、「ただいまあるべうもなし」との宣へば、「いかが、けどき【食時】にわいたるに、さてはあるべき」。何もあたらしき物を無塩といふと心えて、「ここに無塩の平茸あり、とうとう【疾う疾う】」といそがす。ねのゐ【根井】ノ]小野太(こやた)陪膳(はいぜん)す。田舎合子(がふし)のきはめて大きに、くぼかりけるに、飯うづたかくよそひ、御菜(ごさい)三種して、平茸の汁で参らせたり。木曾が前にも同じていにて据えたりけり。木曾箸とって食す。猫間殿は、合子のいぶせさにめさざりければ、「それは義仲が精進合子ぞ」。中納言めさでもさすが悪しかるべければ、箸とってめすよししけり。木曾是を見て、「猫殿は小食におはしけるや。聞ゆる猫おろしし給ひたり。かい給へ」とぞせめたりける。中納言かやうの事に興さめて、のたまひあはすべきことも一言もいださず、やがていそぎ帰られけり。

(現代文)Img_4325
頼朝殿がお出になられました。布衣(ほうい)に立烏帽子(たてえぼし)でした。顔は大きく、背は低いほうでした。容貌(ようばう)は優美で、言語は、はっきりと区別がつきました。
(中略)
頼朝はこのように立派でございますのに、

左馬頭(さまのかみ、馬を扱う役所の長官)木曾義仲は、都の守護職をしていましたが、日常の動作や人目につくような行動の無作法なこと、物を言うときの言葉使いの聞き苦しい事は普通の程度を越えています。道理である。二歳から信濃国の木曾という山里に、三十才まで住み慣れていたので、どうして知る事が出来よう。或時、猫間中納言光隆卿という人が、木曾に相談すべき事があり、おいでになりました。家来達が「猫間殿のお会いして申しあげたい事があると言うて、おいでになりました」と申しますと、木曾は大笑いして、「猫が人に会うのか」。「この方は猫間の中納言殿と申す公卿でございます。御屋敷のある所の地名と思います」と申しましたので、木曾は「それならば」と言って対面しました。猶も猫間殿とは言えずに、「猫殿が、ごくたまにおいでになられたので、食事を差し上げよ」と言いました。中納言は是を聞いて、「いまどきに食事とはとんでもない」と言われたので、「どうして、食事時においでになられたのに、それでは当然のこと」。何でも新鮮な物を無塩と言うと勘違いして、「ここに無塩の平茸があります。早く早く」と急がせました。根井小野太(こやた)が配膳しました。田舎風の蓋付きの椀の大変大きく深いのに、飯を山盛りによそい、おかず三品に平茸の汁で配膳しました。木曾の前にも同じ様子にて配膳しました。木曾は箸をとって食べました。猫間殿は、お椀の汚さに食べないでいると、「それは義仲の仏事用のお椀ですよ」。中納言は食べないのも悪いので、箸をとって食べるふりをしました。木曾は是を見て、「猫殿は小食でございますな。いわゆる猫おろしをなさいました。食べなさい。食べなさい」と何回か勧めました。中納言はこのような事に興さめして、相談すべきことも一言も言い出せず、そのまま急いで帰られました。
(解説)
義仲をけなしている文章の前に頼朝を誉めそやしている文章がある。このように平家物語では2つを対比させる方法で強調する文章技法が多用されているので、頼朝を優美であると強調し、義仲を田舎者と強調している。しかし両者とも20数年を田舎で過ごした田舎者にさしたる違いは無いと思う。猫おろしをしたとからかう場面が面白いと好評のようでこれを採用している本は多い。しかし、次の「延慶本」や「源平盛衰記」にはその記述は無い。歴史研究者の多くは勿論フィクションであると断定している。

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